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閉鎖空間な保管庫
ここは「涼宮ハルヒで801スレ」のネタ保管庫非営利サイトです。 女性向け、BL、801に不快に思わない方のみ自己責任でご覧くださいませ。
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52 古キョン?
「そういうわけだから二人とも頼んだわよ!あ、重い物は全部キョンに持たせていいからね古泉君」
地球の迷惑という迷惑を結晶にした結果誕生したのではないかと本気で思えてしまうような人格を持つ
真夏の熱帯低気圧女ハルヒの話によると、近所の知り合いが引っ越すことになり、
いらなくなった雑貨や何やらをSOS団にただでくれる事になったため、
俺と古泉で取りに行けという事だった。
お前の知り合いから色々いただくわけだからお前が行けばいいだろう、
そんな俺のごく常識的な抗議活動はもちろん徒労に終わり、半ば追い出されるようにして部室を後にした。
こんな暴挙は日常的に行われているので慣れていたが、今回はどうしても行きたくなかった。
いや、行きたくなかったのではなく、こいつと二人きりにはなりたくなかった。
そう、あの日から俺たちは一言だって話していないのだ。

「好きです」
そう告白されたのが五日前。
返事はいつでもいいです、ただ気持ちを伝えたかっただけですから、
そう言って古泉は部室を出て行った。
あの日以来、俺は奴に何かしらの返事をするどころか、
挨拶さえ交わさずに避け続けていた。無論今日もだ。
ハルヒの知り合いの家に行くまでの道中はお互い始終無言、
受け取った荷物を分担するときに「これは僕が持ちますからこっちをお願いします」
みたいな事を話しかけられた時に「あぁ」だか「おぅ」だか返事をしたような気がするが大体は無言、
そして今、プチハイキングコースともいえる学校まで続く坂道を荷物を持って上っている最中だが、
相変わらずどちらも無言で、俺は気まずさに窒息しそうになっていた。

坂を半分ほど上った頃、この重苦しい沈黙を突然破ったのは古泉の方だった。
すみません、と独り言のように呟いてからこう続けた。
「あなたを困らせるつもりはなかったんです。…あの時の事は忘れてしまって結構ですから」
これ以上嫌われたらさすがに辛いですしね、そう言った古泉の笑顔は引きつっており、
無理に取り繕っているのが如実に見て取れた。
「ちがっ……困ってなんか…」
無意識に口をついて出たのは否定、だった。自分でも理解できないこの込み上げる気持ちは何だろう。
情けないほどに狼狽した声で精一杯否定する。そう、違うんだ、あれは寧ろ―
「……嬉しかったんだよ、ただ、」
やっと分かった。認めるのが怖かった。悔しかった。
真っ当で平凡な人生設計をしていた俺がまさか同性を、
しかも大分「普通」の枠から外れているこんな変な奴を好きになるなんて。
夕日のせいにしては異様に赤い顔を見られないように顔を背けたまま立ち尽くしている
俺の視界ぎりぎりに映っている古泉は、あっけにとられたような表情で俺を見ているようだった。
直後、視界から古泉の姿が消え、何事かと驚いてそちらに目をやると
どうしたことか、古泉はその場に座り込んでうな垂れていた。
「安心したら、気が抜けてしまいまして」
情けないですね、そう言って俺を見上げた顔には先ほどまでの悲しそうな笑みは消えていて、
それを見た俺は俺の中の何かが温かいもので満たされていくのを感じた。

俺は両手で持っていた荷物を無理やり片手に持ち替えて、
ほら帰るぞ、さっさと立てよ、そう言って古泉に手を差し伸べた。
元々高めの俺の体温はこの状況下で体温計を振り切るのではないかというほど高くなっていたのだが、
繋いだ古泉の手は俺のそれ以上に熱くて、俺はついに気が狂ったのだろうか、
こんな変態相手にあぁ愛しいな、なんて思ってしまった。

「このまま繋いで帰りませんか?」
「お前って心底キモイのな…………………………………少しの間だけな」
そう答えた後、気付かれないように視線だけ動かして
古泉を見上げた瞬間心臓が跳ね上がるのを感じ、慌てて目を逸らした。
前を向いていると思っていたそいつはしっかりと俺を見ていて、
しかも浮かべているのはいつもの見慣れた、貼り付けたようなあの笑顔ではなく、俺の知らない極上の笑顔だった。

やられた、と思った。俺は自分が思っている以上にこいつの事が好きらしい。
その事に死にたくなるような恥ずかしさと漠然とした不快感を覚えた俺は
くっつくんじゃないかと思うほど眉を寄せて坂をずんずん上っていった。
隣には誰がどう見ても超上機嫌な笑顔の古泉。しっかりと手は握ったまま。

夕日に照らし出された影にふと視線を落とすと、俺の不機嫌な表情は真っ黒に塗りつぶされており、
そこにはただ手を繋いで幸せそうに歩いている間延びした二人の姿があるだけだった。

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51 26の続きキョン×古泉 「キョンの得策」

三度俺が口付けようと顔を寄せると、古泉が手でストップをかけてきた。

「あなたに、お願いがあるのですが」
「何だ」
 
 俺が不満気に返事を返すと、
 古泉は俺よりも熱い視線を返してきて、目元は潤んでいる。が、妙に嬉しそうだ。
 これだけだと、下手したら女性よりも、壮絶な色気を醸し出しているのだが、
 如何せんその表情は、人を見透かすような笑顔だ。忌々しい。
 それにお願いときたもんだ。こういっては何だが、
 この状況でのお願いというものは、ロクなことがないと俺の勘が告げているね。

「僕のことを、苗字ではなく、名前で呼んでくださいませんか」

 ほら来た。誰がそんなこっ恥ずかしいこと出来るか。
 俺が苦々しい表情でそう呟くと、
 古泉は肩で息をしながら、少しひょいとすくめるという器用なことをして、

「別に、恥ずかしいことではないですよ……キョン君」

 何でお前が俺の名前を呼ぶんだ。しかもあだ名かよ。

「ああ、もっと言って欲しかったですか? キョン君、キョン君――――」
「うるさい。あだ名で呼ぶな、耳元で囁くな、連呼するな、…………一樹」

 これ以上こいつを喋らせると、更に厄介なことになりそうなので、
 いや、あだ名をその無駄に低くエロイ声で連呼されたのが決してむず痒かったからではないとも言えんが、
 とにかく黙らせるために、そして行為を続行させるために、俺は古泉を立たせて、後ろ向きで壁際に押し付けた。
 いわゆる立ちバックの体制だ。ちなみにヤツのご所望の通り名前を呼んだのは、ただの気まぐれ、もとい逆襲だ。

自分からお願いしたくせに、俺が素直に名前で呼んだことに相当驚いたらしく、
 古泉は動きが停止していた。何だ、そりゃ。
 だが、これはチャンスだ。俺は古泉を壁に押し付けたまま、自分でベルトを外し、
 ジッパーを下ろして俺のいきり勃った愚息を引っ張り出した。
 そのまま、無防備な古泉の後ろに擦り付ける。既に先端からは先走りが出て、ぬるぬるしていた。
 ビクっと古泉の体が震えたのが感じられたが、さて俺はどうしようかと考えていた。
 さすがにこのままじゃ入らないし、きついだろ。何か滑りをよくするものはこの部室にあったのかと思案していると、

「ぼ、くの、上着のポケ……ふぁっ……、日焼けど……く……」

 喘ぎに紛れて途切れ途切れに言葉をなしてないが、古泉の言いたいことは分かった。
 というかこいつは俺の表情を見てないのに、また考えを見透かした。本当に別の超能力を見に付けたのではあるまいな。
 俺は頭の中でぼやきつつ、左手の人差し指とを中指を古泉の口に咥えさせ、
 右手で上着のポケットをまさぐり、蓋を指を使って無理矢理こじ開け、そのまま手に付け塗りたくる。

「んぐっ……んんっ――――」
「そのまま指を舐め続けろ」

 いきなりの行動に少々きつかったのか、くぐもった声をあげ、
 少し目の端に涙を零しつつ、俺の言った通りに古泉は指をいやらしく舐める。
 まるで甘い飴をもらったかのように、ぺろぺろと舐めたり、いちいちツボらしき所を刺激してくると俺の背筋がゾクリとした。
 ちゅる……ぺろ……ぐしゅ……と溢れ出てくる唾液と共に卑猥な音が口から洩れ、俺の耳にも届いてきた。そそるね。

「ふっ……はむっ……あふぅ……じゅる……」
 
 いつになく従順に指を舐め続ける古泉を見詰めながら、片方の手でこれから俺を迎え入れるソコを指でほぐしていく。

「んあっ! あっ……はっ……」

 古泉は突然快感が襲ってきたのか、舐め続けていた俺の指を口から離し、悶える。
 既に視点が定まっていない。足も小刻みに震え、支えてやらないと、今すぐにでも崩れ落ちるだろう。
 俺はじゅぽっと唾液にまみれた指を引き抜くと、てらてらとわずかな光に反射している。
 まるで自分のものではないようだ。と、自分の手を見て思う。
 そのまま手をさげ、さっき弄んだ胸の突起をいじったり、体をまさぐってると、
 俺の挙動に一々反応を返す古泉を見て、さすがに俺もヤバくなってきた。

「くっ、……そろそろ、挿れるぞ」
「いい、ですよ……」

 待ち望んでいたその言葉を聞いた俺はぐっと腰に力を込め、古泉のソコを一気に貫く。

「ひぐっ!」
「うっ……」

 結構濡れていたはずだが、それでも若干痛そうに呻き声をあげ、
 古泉の目の端からは更に涙が零れている。
 俺も入れた瞬間、一気にくる射精感を堪えるためにそれどころではない。
 そろそろと落ち着いてきて、俺は一つ深呼吸し、古泉に尋ねる。

「おい、大丈夫か」
「うっ、だ……大丈夫ですよ……どうぞ、動いてください」

 
 俺はそれを合図に、ゆっくりと動き出す。
 古泉のはギチギチと締まっていて、出し入れする度にギュっと俺のを締め付けてくる。
 荒い息をあげながら、チラリと古泉の表情を伺うと、なんとまた笑顔である。
 それを見た途端、俺は突然その表情を歪ませたい衝動に駆られ、更に激しく貫いていく。

「うぁ……あっ、……激し……キョ……」
「……だから、あだ名で……はっ……」

 喘ぎながら、薄く開いた口の端から涎を垂らし、古泉の顔からは微笑が消え、
 苦しそうに目を瞑り、俺に合わせて腰を動かす。
 その表情はとてつもなくエロイ。今までで一番エロイのではなかろうか。
 じゅぷじゅぽと、俺達の動きに合わせて結合部からは何とも形容しがたい卑らしい水音が絶えず響いている。
 俺の頭の中が段々と真っ白になっていき、境界線やら何が何やら分からなくなってくる。
 だから、俺は気持ち良過ぎて、思わず無意識に口走ってしまった。

「くっ、……イ……イツ、キ、……俺、もう――――!」

 俺の喉から搾り出すような声に、古泉は瞳を見開き、快楽にまみれた表情で応える。

「あはっ、……い、いいですよ……僕の中で、んっ……イって……」
「うっ、くっ……!」

 ドクッ、ドクッと大きく脈動しながら、俺は古泉の中に大量の白濁をぶちこんだ。
 中に入りきらないモノが、ツーと古泉の足をつたって、床に滲みこんでいく。
 俺がイッたことに感じたのか、間を置かず再度古泉もまたイき、そのまま床に崩れ落ちた。

情事の後、ハァハァと二人して荒い息を付きながら、快感の余韻に酔いしれる。
 どう考えてもやり過ぎた。そんなに俺はがっついてたのかね。
 俺がそう心でぼやき腰に手をやりつつ、古泉の様子を見ると、こちらに嬉しそうな柔和な笑顔をニコニコと向けてくる。

「最後、名前で呼んでくださいましたね」
「……さあな」
「意地っ張りですね……。まあ、そんな所が可愛いのですが」
 
 俺がぼかして返事をすると、ふふっと笑いつつ、汗で額に張り付いた前髪を指で除けながら、古泉は囁く。
 おい、普通、そのセリフを言うのは俺じゃないのか。
 だが、俺は余程のことがない限り、こいつに可愛いなんて言うつもりはないぞ。言ったら調子に乗るに決まってる。
 俺が心の中でそう呟いていると、古泉はあの人を見透かすような笑顔で、

「僕は、いつでも期待して待ってますよ」

 と、ほざきやがった。全く、俺が惚れたこの超能力者はどこまでも油断がならないぜ。
 俺はそう心に刻み付け、未だ床にへたりこんでいる古泉に当初から疑問に思っていたことを尋ねた。

「なあ、なんでお前、俺の心を読んだんだ」

 正確には俺の心を読んだような行動を取ったかだが。
 俺が口にした言葉を聞いて、キョトンとしたような表情を浮かべた古泉だが、
 徐々に顔面には柔らかな微笑が拡がっていく。一瞬、コイツを殴りたくなったのは言うまでもない。

「はて、何のことでしょう」
「とぼけるな」
「簡単な事ですよ」 

 俺の突っ込みで、いつもの調子に戻ったらしい古泉は人差し指を立てながら、嬉々として解説役に回る。

「まず、あなたは部室に入るとすぐに、僕に気付かれないように、鞄で隠しながら鍵を閉められましたね」

 バレバレでしたが、と苦笑しながら、古泉は続ける。くそう、バレてたのか。

「部室には僕一人だけということは、あなたの後に涼宮さん達が来る可能性もあるはずなのですが、
あなたは、僕にそのことを尋ねられる前に、鍵を閉められた。
つまり、あなたは涼宮さん達が今日は部室に来ないということを、ここに来る前に知っていらしたということになります」

 その通りだ。俺は普段なら鍵を閉めない。それに俺が部室へ行こうとする道中、
 上ろうとした階段をものすごい勢いで半分涙目の朝比奈さんと相変わらずの表情の長門を引っ張りながら駆け下り、
 『今日の活動は中止よ! 』と、叫びながら声を掛ける間もなく、嵐のように去っていくハルヒに会った。

 俺が押し黙っていると、古泉は少し目を細めながら、

「それに、あなたは優しいお方ですから、先程何か逡巡されるように一瞬動きが止まった時、すぐに分かりました。
あなたが、僕を気遣ってくれている、とね」

 相変わらず勘のいい奴だ。何となくそっぽを向きながら、ある言葉に俺は少しだけ反応する。

「俺は優しくないぞ」
「そんなことはないですよ。でも、優しくしてくださらなくてもいいですよ」
「何だって?」

 今何だかとんでもない発言を耳にした気がする。俺がぐるりと古泉の方を凝視すると、
 上半身を肌蹴たまま、いつもとは違うどことなく憂いを帯びた笑顔を見せた古泉が、
 ゆっくりと、俺の肩に頭を乗せて寄り掛かって来た。

「古泉?」

 肩に重みを感じながら、珍しく口を閉ざしたままの古泉を不審に思い、俺は声を掛ける。
 俺の声に肩をぴくりと反応させ、古泉は唇だけ俺の耳元に寄せて呟いた。


「あなたになら、何をされても構わない」


 そう発した古泉の声は俺が今まで聞いたどれとも違い、低くそして重かった。
 俺が驚き、我に返って顔が近いとか頭重いぞとかその他諸々の文句を言おうとする前に古泉は顔を上げて、


「まあ、やっぱり痛いのは勘弁ですけどね」

 あはは、と打って変わって朗らかに笑う。さっきの無駄に重苦しい雰囲気はどこにいった。
 俺の驚きを返せと言いたいね。言う代わりに、俺は目の前にいる微笑野郎をぎゅっと抱き締める。

「おっと」

 少しだけ驚いたらしい。これで驚き分は返したぜ。
 それでも、俺は古泉を無言で抱き締め続ける。そのまま、関節技を決められるぐらいきつく抱き締める。

「ちょ、ちょっと、キョン君」

 どさくさに紛れて、古泉はまたあだ名で呼んできた。だから、呼ぶなって言っているだろうが。
 でも、俺はあまり気にしないことにする。何故なら俺はそれどころではないからだ。
 更に抱き締め続ける俺に痛いですよ言いながら、全く痛くなさそうな古泉の爽やか笑顔より、
 俺は満面の笑顔に違いない。
 
 そう今の俺の心境、つまり『嬉しい』ってことさ。


50 脇役谷口の目撃
俺の名前は谷口。キョンのダチだ。
最近キョンの野郎がもてている。間違いない。俺自身この目で見たからな。
忘れ物取りに行った時は長門と抱き合ってたし、真夜中テスト失敬しようとしたら涼宮にポニーテール萌えとか言ってるのも聞いたし、
しまいにはあのにやけた野郎と。えーと誰だっけ。まぁいいか。そんな事もあったっけ。あれは少し引いたな。
国木田に言ってみてもキョンはそんな事しないよ。なんて言いやがる。しかし国木田ってよくみるといい身体してるよな。

まぁ、つまり俺のいいたい事はキョンは何故モテるのか。って事だ。
あいつの何処からそんなにフェロモンが出ているのか今度確かめてみようと思う。



谷口ネタ。無理OLZ
49 キョン古(45の古泉視点)
いつもはゲームで負け戦ばかりしている僕だが、ここぞと言う時の勝負には負けたことが一度もない。
今回だってもとから勝算はあったのだ。

僕はそもそも容姿に少なからず自信がある。
今までも女性はもちろん同姓からも「嫉妬の」とは呼べない種類の視線を向けられる事は何度と無くあった。
その粘度を持つ性質の視線を向けられたとき、僕が感じるのは何とも言えない嫌悪と戸惑い、
わずらわしさばかりだったのに。
彼は違った。

彼はとてもそっけない人だった。
何に対しても基本的に無関心のポーズをとり、それは彼がそっけなく接しない人物を探す方が難しい
と言うほどで(朝比奈さんくらいだろうか)僕に対しても例外ではなく、むしろ一際そっけないのでは
ないかと感じられるほどだった。
それでも時折彼が勝手に吸い寄せられたとでも言うかのように僕を見ている事があるのに気づいた時、
僕が感じたのは嫌悪でも戸惑いでも無く、歓喜だった。
そしてその視線には今まで不特定多数の人々から受けたそれと同じように、無意識に僕にむける
性的な関心が含まれているのだということに気付いた時、絶対に無意識のままではいさせない。
必ず自覚して、認識して、受け入れさせてやると決意していた。


彼の前ではそれが標準装備になりつつある笑顔をわざと一瞬やめてみたり文芸部部室に顔を出す
ときには(つまり彼の前に出るときには)いつもより見た目に気を使ってみたり上目使いに見上げて
みたり。夏の日焼け対策までするようになった。
彼はそのうち面白いくらい過剰に反応してくれるようになり、時には真っ赤になって顔をそらすこと
さえあるほどだった。(反応が過敏すぎて顔が近いなどと怒られる事もしばしばあったが、
要するに照れ隠しだろう)
何しろ、彼はかなり面食いだ。
自分の容姿にここまで感謝した事は無かった。

戦局は俄然我方の有利にある。
僕はそう確信していた。
あとはもうチャンスを待つのみ。

意外にもそれは案外あっさり訪れた。
涼宮さんが開店したばかりのケーキ店に食べに行くと宣言して朝比奈さんと長門さんを連行して行ったのだ。
男二人も随行を命じられたのだが、ファンシーな店内にひしめいているであろう女性の団体の中で
手持ち無沙汰に居場所をなくす事が簡単に想像できたので丁重に辞退させていただいたのだ。
そうして文芸部部室に残っているのは彼と彼にオセロの負け戦を挑んでいる僕だけとなり、いわゆる
「二人きり」が完成したわけだ。
ゲームの勝利は彼に譲るが、この勝負にだけは負けられない。
僕は緊張に乾く唇を軽く舐めてゆっくりと口を開いた。

「あなたにひとつ言わなければならないことがあるんです」

彼はちら、と視線だけこちらに向けた後に盤上に白を置いた。僕の置いた黒が一気に6つ裏返されて、
盤上を占める白の割合はいまや7割以上だ。
「お前が超能力者って話ならもう聞いたぞ。それともまた涼宮がらみで何かあるのか?」
「いいえ、涼宮さんはこの件には関係ありません。ボクの個人的な事についてお話ししておきたいんです。」
彼は盤上から顔を上げ、少し驚いた顔をしてこちらを見た。
「なんだ、お前が自分のこと話すなんて珍しいな」
「ええ…」
ひとつ深呼吸する。

「あなたがすきです」

「は…?」
「あなたが好きです。愛してるんですよ」
「なんだ?どういうことだ?愛ってなんだ?」
そんな哲学的な話をしているのではない。
「また孤島の時みたいな機関がらみのどっきりなのか?勘弁してくれ」

予想はしていたがあまりの話の通じなさにイライラしてきた。僕は席を立ち、座ったままの彼の
そばまで歩み寄った。

「機関も関係ありません。僕の個人的な話だといったでしょう。あなたが好きなんです。嘘じゃない。
毎日あなたの事ばかり考えてる。いつ閉鎖空間が発生して神人との戦闘で死ぬかも知れない。
そのままあなたに二度と会えないのかも知れない。今日が最後で明日はないのかも知れない。
あなたが欲しいんです。あなたにも僕を欲しがってほしい。僕にとってこれ以外にない、
これ以上も無い。これが唯一の愛の形なんです。愛してるんです。愛なんですよ、これは。」

僕は呆然としたままの彼にしがみつくようにして抱きつきキスをした。

あれ。

ゆっくりと唇を離しまぶたを開けて伺ってみると、彼は怒りと表現して良い表情をしていた。
しまった。急ぎすぎたのだろうか。絶望に全身が冷える。重い石を胸の中に無理矢理詰め込まれた
ような心地だった。
絶対に拒否されたくない。
欲しいものも失うものも彼以外に居ない。ここで彼に否定されるくらいなら死んだほうがましだ。

突然すごい勢いで引き倒されて思い切り床に後頭部を打ちつけた。
ばらばらと音を立ててオセロの石が周囲に散らばる。
せっかくあなたの圧勝だったのに。
ぐらぐらしてやたら痛む頭で状況を受け入れた。
ああ、良かった。
これで良い。

引き裂くような勢いで僕の制服のボタンを外し胸に顔をうずめて来る彼の頭を心から安堵して抱きしめた。

そりゃあもうショックを受けもしたのだろうが、彼は僕でもあきれることにそれから3日で現状を
受け入れてしまった。
いま、僕は昼休みの誰もいない屋上で床に直接座り込んだ彼の足の間に腰掛けるようにして
お昼ご飯を食べている。
座っている彼の足の間にむりやり割り込んだとき、やめろとか人を椅子代わりにするなとか言われたが、
本気で嫌なら僕をおいて別の場所に座れば良いだけの話だし、そもそも二人きりになれる所になんて
来ないだろう。要は照れ隠しだ。もっとも、あーんといって卵焼きを差し出したときには本気で
嫌がられたが。正しく恋人らしいお昼休みの過ごし方といえる。
考えてみれば宇宙人や未来人や超能力者や神とさえ呼べるクラスメイトの存在を許容した人格の
持ち主なのだ、彼は。結構図太い神経の持ち主なのかもしれない。
一ヶ月は覚悟してたんですけどね。
もちろん絶対に立ち直ってくれなくては困るし、現実を拒否されても困るし、無かった事にするなど
絶対にさせないというつもりで僕が挑んだのだが。

後は涼宮さんにだけはばれない様にすれば良い。
大丈夫だ。絶対に悟らせない。
この関係を破壊することだけはできない。
手放す事なんて出来ない。
彼を愛しているのだ。

48 古キョン
数々のコスプレ衣装と本の山と少々旧型になったもののいまだ
真新しいと言ってもよいパソコンと、さらにはハルヒが持ち込んだ
謎の物体で異次元の古道具屋みたいになっているSOS団の部室で、
いつものように俺は古泉とオセロをしていた。
 なにか買いたいものがあるとかで残念なことに朝比奈さんはお
らず、ハルヒはどうでもいいなにかの理由でまだ姿を見せていな
い。さらには本当に珍しいことに長戸もいなかった。
 なんだか部室はしんとしていて、互いの息遣いさえ聞こえてき
そうで、規則正しいリズムでパチリパチリとオセロの石が板を叩
く音だけが響いていた。

 たっぷりと時間を置いて、実に様になる手つきで、古泉は致命的にどうしようもないところに黒を置いた。
 ちらりと表情を伺うと、嫌になるほど整ったニヤケハンサム面に微かな憂いを浮かべている。真剣な顔をした古泉君も素敵ねっとクラスの女どもなら言うだろうか。
まあ俺は朝比奈さんがこいつを褒めるのでなければどうでもいい。
湯気を立てるステーキ(フォークとナイフつき)くらいにお膳立てされた、最後 の角に俺の白石を置く。立て横斜めの黒ををまんべんなくひっくりかえすと、古泉 が外人のように肩を竦めるジェスチャーをした。
「あぁ…、見事にひっくり返されてしまいました」
「もうお前が置けるところもないな」
 それから数回俺が黒を白にひっくり返して勝負がついた。ジュースを賭けておけばよかったと思うほどの圧勝だった。

ここまでこてんぱんにやられると、再勝負を望む気力もなくなるらしい。おとなしく僅かな白を、賽の河原の小石のように積み上げる古泉に釣られて、俺も手慰みに黒石でピサの斜塔を作ってみる。
「もうひと勝負するか? 今度はジュース賭けて」
 微妙に肩を落としているような相手が珍しくて、俺のほうから水を向けてみる。
「そうですねえ、じゃあ今度はチェスでどうでしょう」
「お前俺が一番慣れてないので…」
「君が賭けようなんて言い出すからですよ」
 お、鴨にされてる自覚があるのか。というか、賭けても負けなきゃいいじゃないか。
「君に奢るのが嫌だと言うわけではないんですけどね。僕につきあってもらうお礼
みたいなものだと思えば」
 白黒が互い違いになった石をまとめてケースにしまう長い指がまた絵になった。
マジシャンのようにもったいぶった手つきで蓋を閉める。
「なんだよ。結局やるのか? やらないのか?」
「やりましょう。君が勝ったらジュースを奢りますが、僕が勝ったら」

 にっこりと、男の俺でさえ魅力を感じる笑顔で古泉は微笑んだ。
「キョン君に僕の言うことをひとつ、なんでも聞いてもらうと言うのではどうでしょう?」


 こいつが俺に望むようなことってなんだろう。
 うんともすんとも答えずにいるうちに、古泉は勝手にチェス盤を机の上に置いてしまった。
 閉鎖空間、つまりハルヒ関係で最近なにかこいつが困るようなことがあったのだろうか。数度しか訪れたことのない、一度訪れたら十分過ぎるあの異様な空間を思い出す。
 あんなところで、赤い光る玉になってあの巨人と戦っているのかと思うと、このにやけた、完璧を絵に描いたような男も、あそこではさすがに笑ったりしないんだろうなと思うと、少し居心地の悪さを感じる。だから考えるのを止めた。
「なんでもってなんだよ」
「簡単なことですよ」
「お前が思う簡単なことってのがわからないから微妙だな。金ならないぞ」
「そういう、金銭面で君に負担のかかることを僕が望むと思いますか?」
「待ち合わせで俺が遅くなった時は遠慮なく奢らせるじゃないか」
 そうは言いながらたしかに、あんなでかい車に乗ってクルーザーやなんやらを好きに出来る『機関』の一員ならば、フランス料理屋でフルコースを奢らされるような羽目にはならないだろう。こいつ自身の家庭環境のことは知らないが。
「たまったストレスを俺を殴って解消させてくれ、とかいうのもごめんだ。暴力反対」
「ストレス、たまってるように見えますか?」
 にこやかな笑顔に反射で眉をしかめる。たしかに、ストレスをためているのは俺のほうだ。おもにハルヒのやらかすあれやこれやで。
「……労働……とかか?」
「いやいや、一瞬ですよ。ほんの1秒か、2秒」
 瞬くような時間であることがかえって怪しい。

痛くなくて、奢りとかそういうことでもなくて、

 灰色の閉鎖空間

 小鳥のように軽い、
 ……瞬間の、体温
 掠めるようにして消える

「…キョン君?」
 我に返ると古泉の顔がものすごく近かった。
 まつげの数さえ数えられそうなほどの距離に反射でのけぞる。のけぞって、俺はそのまま椅子ごと後ろに、
「キョン君!」
 60度くらい傾いたところで古泉に腕を引かれて、なんとか床に転がる事態は避けられた。
 ものすごく心臓が脈打っているのが解る。恐らく顔も赤くなっているだろう。
「あ、危なかったですね。痛くはなかったですか。驚かせてすみません」
「あ、ああ、 サンキュ」
 赤面するのもドキドキするのも、びっくりしたせいだと思いたい。
 挙動不審であるのは十分承知の上で、俯く俺の肩をポンと叩いて、古泉は支度の出来たチェス盤を挟んで座った。
「やめましょうか?」
 長い足を組んで首を傾げる。大人びたポーズは、なんだかびくつく子どもを宥めるようだ。
 俺の側に並べられた白のポーンを掴んで、ガンガンと音高く2歩進めた。
 だいたい、負けなきゃいいんだこんなの。

 ゲームが進んでいけば、やっぱりチェスでも古泉は弱く、あんなに賭けの内容を考えたことが馬鹿らしく思えるほどだった。
「お前なあ…、俺がルール覚えて何回目だと思ってるんだ」
 黒のビショップを盤上から取りあげて転がす。
「……君、どこかで練習してません?」
 してねぇよ。チェスをたしなむようなハイソな家族も級友もいねぇよ。ついでにオセロもトランプも将棋も囲碁も、お前とやるのが何年ぶりかってくらいに久しぶりだったよ。
「負けた時の言い訳か? それは」
 なぜか妙に嬉しそうな古泉のヘボ手の鼻先を叩くようにポーンを取る。
「つかさ、お前こんなに弱くて楽しいか? ゲームしてて」
 俺だったら絶対ふてて止めるね。
「楽しいですよ」
 その語調が奇妙に強くて、俺は古泉の顔を見た。目が合う。もしかしたら古泉はずっと俺を見ていたのかもしれなかった。強い眼差しはすぐに、完璧に作られた微笑にまぎれて消える。
 たわいない話を続けながら、なぜかその言葉が残る。
 戦うということを、考える。負けても終わりじゃないゲームでの勝負を望むのは、だからなのかもしれない。
 あの灰色の空間で戦うと言うこと。
 またなにか顔の赤くなりそうなことを考え出しそうだった。

「チェックメイト」

 ふいに響いた古泉の声に、心臓が跳ねた。

「チェックメイト、ですね。あと3手で詰みだ。キョン君の」
 オセロでもなんでも、置く場所がなくなって完全に勝負がつくまで続ける古泉が、
途中で降参を宣言する。指先が黒のキングを弾いて、ころりと転がった。俺のポーンに当たって止まる。
「残念です」
 欠片も残念だと思ってなさそうな爽やかな声と表情で古泉は言った。
「結局、俺にしてほしいことってなんだったんだよ」
 潔く財布を持って立ちあがる背中に、正直気になってしょうがなかったことを尋ねる。
 いけ好かない微笑みはそのままで、古泉はゆっくりと俺に歩み寄った。椅子に座ったままの俺に合わせるように、腰を屈めるようにする。
 笑っているのに、なんだか気圧されるようで、俺は動けなかった。
 動けなくて、古泉が俺に手を差し伸べるのを見ていた。その手が、少しひやりとした指が、俺の左の頬に触れても、動けずにいた。

 手のひらは俺の頬を完全に覆って、その感触を確かめるかのように軽く押してきた。
 長い指は耳の後ろ、リンパのあたりまで届いて、俺は歯の噛み合わせを意識する。
耳の裏で脈打つリンパの流れを、早くなりそうな鼓動を意識した。顔が近い。息も届く。

「汚れが」
 すうっと線を引くように低い温度を残して、古泉は手を引いた。ぱんぱんと手のひらをはたいている。
「ついてました。さっき転んだ時ですね」
「……ああ、悪いな」
「ジュースはファンタでいいですか」
「ああ」
 目を合わせずに古泉は部室を出ていった。感触の残る頬に、古泉がしたように自分
で触れてみる。顔をすくいあげるような触り方だった。危うく目を閉じるところだった。
 というか、ものすごく顔が熱い。
 なんとか奴が戻る前にこれをどうにか平常に戻さなければと、焦る俺をあざ笑う
かのように、予想より早過ぎる間で、けたたましくドアが開いた。
「なによキョンひとり? なってないわねー! なんか最近たるんでない? ここはひとつ百人一首大会に参加するってのはどうかしらねっ。みくるちゃんには晴れ着よ晴れ着っていうか何赤くなってんのよアンタはー!」
 なんでこの時期に百人一首大会なんだとかちゃんと部室に来てる俺に遅刻してきたお前が何を言うかとか朝比奈さんの晴れ着はいいとかそんないつものドタバタで時間は過ぎて、俺がそれを思い出したのは 家に帰って飯を食って風呂に入って着替えて寝る寸前だった。

 俺は転んでない。
47 古泉一樹の喪失
「ウホッ」「イイオトコ」[ヤラナイカ]最近俺の耳によく聞こえる謎の声だ。果たして声なのか音なのかすら皆目検討がつかない。
一瞬ハルヒが変な生き物を捕らえたのかと思ったが、ハルヒなら真っ先に言うだろうし、すぐに顔に表れる。
長門は、と言うといつも通り本を読んでいる。全く代わり映えのしない奴だ。
朝比奈さんは、、、、この天使がそんなことを言う訳は無いし、想像出来ない。言っては欲しいが。

そんなこんなで夕方となり、長門の本を閉める音と共に自然と解散の流れとなる。

帰り道、誰かの視線を感じるが、気の性だろう。男の俺が襲われる訳が無い。
それに俺にはそっち受けのするようなフェロモンは出ていない筈だ。
そんなことを思いながら坂道を下っているうちに部室に忘れ物をしていたことに気づいた。
くそっ、ほとんど降りてしまった。急いで部室に戻ると明かりが着いていた。
ハルヒか?朝比奈さんか?それとも長門か?

部屋を空けるとそこには


部屋を空けるとそこには・・・・誰も居なかった。

なんだ、電気の消し忘れか。思わず溜息が漏れた。
・・・いかん。だが俺も一介の高校生だ。そういうシチュを心の何処かで期待するのは自然な事だ。
そんな自己分析をしながら部屋を見渡すと、ほこりを被ったチェス盤が置いてあった。
今はもう誰にも使われていない。あいつが居なくなってから。

「今度の閉鎖空間はずいぶん大きいようですね。あなたが涼宮さんにあんなことを言ったからですよ。」
古泉はそう言って席を立つと出かけていった。そして、帰ってこなかった。

局面は今でも覚えている。俺の圧勝だ。古泉にはナイトとキングの2人しか残って居なかった。
俺はおもむろに駒を並べていた。
・・・・いない。どこを探してもあのナイトがいない。今はキングが一人だけ。

古泉。俺は思わず呟いていた。長門は閉鎖空間の消滅と共に古泉の存在も消えた、と言っていた。
そして、本人の伝言により記憶の情報操作を行う。とも言った。
長門は俺にだけ情報操作を行わなかった。ハルヒも朝比奈さんも古泉を知らないのに俺だけが知っている。

古泉、お前はそれでいいのか。機関の捨て駒として扱われ、存在すらも忘れられて。
ナイトは最後までキングの側に居るもんだろ。

俺は古泉の存在の重さを噛み締める事しか出来なかった。

・・・・続く?行間の間は自分の想像力で補完してくれw

46 古キョン 
「はぁぁ…」
長い溜息が部室内に響いた。
俺は今、風邪からくる倦怠感に悩まされている。

机に伏してダラけてると、古泉が小さな包みを差し出した。
「辛そうですね。僕の持ってる喉飴で宜しければ、どうぞ」
「ん?お前も風邪か?」
「ええ。最近何かと忙しかったものですから。疲れが溜まってたのかもしれません」
コイツが『忙しい』と言うとロクな事じゃない気がするが…。まぁいい。折角だから貰っておくか。
差し出された飴を受け取り、口の中に放り込む。うん、結構ウマい。
むぐむぐと口の中で飴を転がしてると、古泉が不可解な呟きを洩らした。
「イイですね」
「…?何がだ」
「飴を頬張る貴方も中々素敵だな、と思いまして」
どういう意味だ?大体、俺にそんな言葉を言うのはお門違いだぞ、古泉。
「…イヤミか?」
「照れた姿も可愛いですね。耳が赤いですよ」
「照れとらん。呆れてるんだ。耳が赤いのは風邪の所為だ」

全く、コイツと話してるだけで熱が上がる。
ああ、部室に女性陣が居なくて良かった。特にハルヒにこんなやりとりを見られたらどうなる事か。
面白おかしく囃したてられた挙句、次の映画のネタに使われるかもしれない。
そんな恐ろしい事態はごめん被る。
鬼の居ぬ間に何とやら、早々に退散するべし。
俺は素早く席を立ち、爽やかな笑顔を作ってドアノブに手を掛けた。
「俺、そろそろ帰るわ」
「じゃあ僕も」
チッ。逃走失敗。
古泉はちゃっかり俺の隣位置をキープしてる。不本意ながら一緒に下校する破目になった。
まぁ、たまにはいいか。
…待て俺。何が悲しくて男二人きりで仲良く帰らにゃならんのだ?
妙な考えが浮かぶのは風邪で思考力が鈍ってる所為だ。…多分。

廊下を歩く俺の傍らで古泉がのほほんと呟いた。
「冷えますねぇ」
「そうか?俺は暑いけどな…」
冷える所か少し汗ばんでる位だ。なんだか息苦しい。マズい。風邪が悪化したのか?
古泉は肩でを息をする俺を心配そうに覗き込む。

「顔が真っ赤ですよ。大丈夫ですか?」
やけに顔が近いが、今はそんな事を気にしてる場合ではない。
なんだかクラクラしてきた。景色が、回る…。
「ん…。少し怠いな…」
古泉の手前、多少強がってるが、本当は少しなんてモンじゃなかった。
もし未来から来た青い猫型ロボットが実在するなら、今すぐ便利扉を出して欲しい。
「とりあえず保健室に行きましょう」
「ああ…悪い…」

古泉に支えられた俺は何とか保健室まで辿り着いた。
だが訪問者を処置する筈の養護教諭は居ない。
どうせ職員室辺りでのんびりお茶してるに違いない。チクショウ、給料泥棒なんか大嫌いだ。

古泉は恨み言を吐く俺を手際良くベッドに寝かせると、氷枕を持ってきた。
随分気の利く男だ。コイツ、意外と恋人に尽くすタイプだろうか?

取り留めなく考えてると、古泉がベッドの端に腰掛けた。安物のスプリングが軋む。
人が苦しんでる時に何故か嬉しそうな顔をしている。不謹慎な奴め。
古泉は睨む俺に構わず口を開いた。

「ねぇキョン君。身体が熱いでしょう。どうしてか判りますか?」
いきなり何を言い出すのだ、コイツは。病人の前で意味不明な言動は慎んでくれ。
「そりゃ、風邪の所為だろ…」
ありきたりな俺の答に古泉は低く喉を鳴らして笑った。

「いいえ。貴方のその症状は、僕が渡した飴の所為ですよ。気付きませんでしたか?」

何だって?あの飴に毒でも仕込んだってのか?
しかし、仮に俺をどうこうした所でコイツに何のメリットが有るんだろうか。
嫌がらせか?それとも、機関絡みの新種の薬物実験か?後者なら確実に犯罪だぞ、古泉。

古泉は呆然と固まる俺に焦れたのか、軽く眉根を寄せた。
行儀良く結ばれたネクタイを乱暴に外し、俺の体に覆い被さってくる。

「!?…何のつもりだ…?」
流石に危機感を覚えて身構える。古泉は警戒する俺を無表情で見下ろしていた。
なまじ整った顔立ちなだけに、表情を失くした美貌は氷のように冷たく感じられた。
「まだ解らないんですか?それとも、解らないフリをしてるだけ?まぁ…どちらでも構いませんけどね」


突然強引に口付けられ、ねっとりと口腔を貪られた。
俺は古泉の体を押し返そうと必死で藻掻いたが、奴の体はビクともしない。
肌をなぞられ、痺れるような感覚が全身を駆け巡る。思わず声を上擦らせた。
「うッ…。あぁぁ…!」
アツい。体が燃える。熱くて気が狂いそうだ。

ー媚薬。
気付いた時には手遅れだった。抗えば抗う程カラダが熱く猛っていく。

「あぁ、ようやく効き目が現れましたね…。可愛いですよ、キョン君」
身悶える俺をうっとりと見下ろした古泉は、ネクタイで俺の手をベッドの支柱に縛りつけた。
抵抗しようと体を捩ったが、濃厚なキスで遮られる。唇の端から唾液が零れてシーツに染みを作った。
ヤバイ。腰にキてる…。そう自覚した直後、古泉の白い手が腰に触れた。
制服の上から膨らんだ股間を執拗に撫でられ、甘ったるい声が洩れる。

「あぁぁッ…!!やめ…ッ」
「やめて良いんですか?今やめてもツライだけなのに…」
伸し掛かられ、耳を舐められた。体が跳ねる。
カラダ中が感覚器になったように、何処を弄られても感じてしまう。

「こいずみ…な、んで…」
悲しみや憤りではなく生理的な涙が込み上がってきた。
古泉は目尻を濡らす俺を潤んだ眼差しで見下ろしている。
「何故…?欲しいから奪う、それだけの事です」
吐息混じりの濡れた囁きと共に、硬くなった雄を何度も擦り付けてきた。

好きだから欲しい?古泉が、俺を?何故?
その疑問は快感に掻き消された。
そこかしこに降るキスが疼く身体を容赦なく追い詰めていく。昂ぶりを抑えられない。


俺の脚の間に体を滑り込ませた古泉は腰のチャックを咥え、下着から俺自身を取り出した。
露出した雄は淫らに先走りの蜜を垂らしている。
「…いい眺めですね…」
愉悦に満ちた視線に犯され、羞恥に身を捩る。隠そうにも両腕は拘束されて動かない。
足を閉じようとしたが、腿に手を掛けられて強引に割り裂かれた。
古泉は先走りで濡れる俺自身に白く細長い指を絡み付かせ、ゆるやかに扱いた。

「やめッ…!」
「やめませんよ。これから楽しくなるんですから。ホラ、貴方だって欲しがってるじゃありませんか」
扱かれた俺は天を向いて濡れそぼり、しっかりと自己主張していた。恥ずかしさのあまり死にたくなる。

「お前が…!こんな事するから!」
「そう。貴方は何も悪くない。僕が壊れただけです…」

古泉の表情が苦痛に歪んでいた。
その悲哀に満ちた眼を見た瞬間、抗う気力が薄れてしまった。
こんなに酷い目に遭わされてるのに。

古泉が屹立した俺の雄を口に含む。狭い口腔がねっとりと絡み付き、その熱さで狂わされる。
噛み締める唇の隙間から喘ぎが洩れる。早く、イかせて欲しい。
「古泉…こいずみ…、もうッ…!」
「………」
掌と口の両方で責められ、無意識に腰が揺れた。
ぎちゅぎちゅと濡れた音と、貪欲にねだるはしたない淫声が響く。
尖端を強く吸われ昇り詰めた。古泉は俺が放った液を躊躇いなく飲み干し、舌なめずりしている。
「…ごちそうさまでした…」
銀の糸が俺と古泉の唇を繋ぐ。その卑猥な光景に眩暈がした。

やさしく頬を撫でる古泉の手が涙に霞む。
快楽を与えられ、このまま狂わされていくのだろうか。背徳感に身体が震えた。
ギリギリの所で保っている自我が脆くも崩れ去ろうとしていた。


古泉は額に軽くキスをすると、俺の雄から滴る精液を蕾に塗り込めた。
「あ、ぁッ…!」
ゆっくりと指が回し挿れられ、肉襞を掻き回した。柔らかく解れると徐々に指の数が増えていく。
「そろそろ…いいですか…?」
いつの間に準備したのか硬く猛った己を取り出し、俺の蕾に擦り付ける。
「…ッ!やめ…」
そんなに大きな楔で貫かれたらどうなってしまうのだろう。
怯える俺の肌にキスを繰り返し、大丈夫だと宥めすかす。
小さく頷いて、瞼を閉じた。
「…ッ…!ぅ…ぁあッ…!!」
慣らされていたお陰で思ったより痛みは少なかった。
けれど、指とは比べものにならない圧迫感に息が詰まる。徐々に侵入する熱い楔により深い場所を穿たれる。
「あ…ぅッ!!く…ッ…」
強い快感に意識が遠のいた。
「…ッ…狭いな…」
古泉の端正な顔が苦痛に歪む。汗ばんだ額に髪が張り付いていた。
この男を咥え込んでいるのかと思うと興奮して身体に力が入った。


「こ、いず…み…」
「名前で読んで下さい…。そしたら、ご褒美をあげますから」

乞われて、羞恥もプライドも捨て、震える声で哀願した。
「い、つ…き…」
途端に、カラダの中の古泉が一層硬く大きくなった。
激しく穿たれ、擦り切れそうな意識の中で古泉の背中に必死で縋りついた。
「ぁぁああッ!!」
達した弾みで力が入り、肉壁で締めつけると古泉が低い呻きを漏らした。
「……ッ…!」
蕾の最奥に熱い滾りが注がれる。

荒い吐息を繰り返し、快楽の余韻をやり過ごす。
俺はしばらく放心状態で古泉の重みを受け止めていた。
古泉は虚ろな視線を彷徨わせる俺を強く抱き締め、耳元で甘く囁いた。
「好きです」

順番逆だろ、と突っ込む気力は既に無かった。

俺は古泉に身を任せて、されるがままにしていた。
古泉は俺の頸を舐めたり甘噛みしたりしてる。
鼻先をくすぐる古泉の匂いに酔いしれる。髪が肩に掛かって、くすぐったい。

何やってるんだろう、俺。男に抱かれるなんて。しかもそれを心地良いと思うなんて。
古泉に揺さぶられて、頭のネジが2・3本くらい外れたんだろうか。


淫らな行為と真摯な眼差しのギャップが大きすぎて混乱する。
コイツの何処までが真実で、何処までが嘘なのか判らない。


だけど、俺を求める古泉の眼を見た瞬間に思ったのだ。
もし本気で拒んだら、古泉は俺の前から姿を消すのではないかと。
そして、二度と会えない処へ行ってしまう気がした。

それだけは嫌だった。

古泉の居ない部室を想像して、そこでぽつんと座ってる自分を想像して、喪失感に打ちのめされた、なんて。
認めたくないが、紛れも無い事実だった。

快楽に流されてしまえば、抵抗しない理由になると思った。
もしかしたら、古泉より俺の方がずっと腹黒いのかもしれない。


荒い呼吸を繰り返す古泉の頬に手を当てる。偽りの仮面を外した熱を帯びた素顔が有る。
抱き続けた猜疑心は、交わりの熱で溶け出していた。
何が本当で嘘なのかなんて、考える意味など無いのだろう。


全てが嘘でも構わない。お前の素顔ががケダモノでも、悪魔でも。
お前を繋ぎ留めておけるなら、カラダだって魂だって捧げてやる。
それが俺の希みなのだから。

「…責任とれよ」
俺がくぐもった声で呟くと、古泉はこの上なく幸せそうに微笑んだ。

45 キョン×古泉
古泉一樹は夕日の射す窓辺に立ってこちらを振り返った。

「せめて、今まで通りに・・・というのは僕の都合の良すぎる願望ですか・・・?」

いつもの意味不明な顔面張り付き型の微笑みはそこには無かった。
そんなどこか困ったような、今にも泣き出しそうな表情で見つめるな。
震える声でしゃべるな。
夕日を背負うのも止めろ。お前わざとやってないか。
それは薄幸の美少女にのみ求められるエフェクトであって、健康な男子高校生には許されない。
薄暗い文芸部部室のなか、目に痛い程赤い夕日で古泉の輪郭が滲んで、今にも掻き消えそうだ
とか思ってしまうじゃないか。
俺は病気なのか?
ちなみに少なくとも古泉はどう考えても頭の病気だ。
俺を好きだとか抜かすくらいだから。
しかもキスまで出来るくらいだから。
あまつさえ何故か勢いで押し倒してしまった俺に、とても快感には結びつかないようなセックスを
されてそれでも未だに好きだとか言うくらいだからもう確実に病だ。
だからやっぱり俺も病気だ。

あの時俺は足の間から血を流す古泉を直視できなくて逃げるように家に帰った。
文字通り犯してしまった過ちに(それこそ身近に宇宙人と未来人と超能力者が居ると知ったとき
以上の)人生最大のショックを受け、突如として訪れた(数時間前まで考えた事も無かった)
アイデンティティの危機にどう立ち向かったら良いのか見当もつかず、そのまま片付かない
脳みそを抱えて学校を休む羽目になった。
しかしそのままずるずると健康なのにもかかわらず登校拒否し続け、妹の持って帰った給食の
プリンを食べさせてもらったりしている訳にも行かない。
そして俺は覚悟を決め、三日間自己認識の危機に放り込んでくれた元凶に決然と立ち向か・・・って
いるはずだったんだが、いつのまにか俺はふらふらと引き寄せられるように古泉のそばに来ていて、
古泉は窓枠に腰掛けるようにしていて、いつもは俺よりも数センチ程上にあるこいつの視線が今は
俺より少し下にある。お前やっぱそれ狙ってやってるだろ。

「このことが涼宮さんにばれて、それで僕の存在ごと消えるような事になっても、それでも
構いません。あなたの事が好きなんです。・・・あなたは、もう、僕のことなんか、きもちわるいと、
変態のホモ野郎だと、視界にも入れたくないと、思っているかもしれませんが・・・・・・」

うるさいだまれ。
目に涙をためるのも止めろ。萌える。
お前がきもちわるいなら俺だって気持ち悪い。
お前が変態なら俺も変態だ。
お前がホモ野郎なら俺もホモ野郎なんだ。
三日間布団の中で折って畳んで握りつぶしてぐっちゃぐちゃになって何とか否定しようと
してみたけど、見つけ出したのは結局それだった。
朝比奈さん辺りに捧げたいと思っていた俺の童貞を奪ったのはお前なんだ。責任とれ。

涙のたまった目を見開いてこちらを見上げる古泉を、俺は問答無用で抱きしめた。

「お前が好きだ」

父よ母よ妹よ、ごめんなさい。
4日前の俺にさようなら。
俺はSOS団とか言う部活ですらない正体不明の団体に所属する正体不明の転校生で
正体不明の機関とやらに所属する超能力者で本音は常に不透明で男の趣味も意味不明、
得意技は顔面に張り付いた笑顔と乙女演出な古泉一樹を好きになってしまいました。

44 古泉×キョン
カーテンを引く音がしたあと、古泉が俺の額に手を当てた。
無駄に顔が近いが、今の俺にはそれに気を使えるほどの体力が残っていなかった。
「熱いですね、大丈夫ですか?」
「・・・大丈夫じゃないから保健室にいるんだろ・・・」
わざと面倒くさそうに呟く。
それもうですね、と笑顔を見せた。
「・・・何考えて此処に着たか知らんが、妙なこと考えるなよ」
今日はお前の相手してるほど余裕は無い。
できることなら直ぐにここから立ち去ってほしい。
つい先ほどハルヒが俺の病状を悪化させに来たばかりだ。
古泉、なんでそこで不服そうな顔してんだよ。
「僕にうつせばいいんじゃないですか?」
「・・・お前風邪とか引かさそうだな」
バカだからとかじゃなく、なんとなくそう思った。
「じゃぁ薬でも飲みますか?」
それが一番無難だな。
とにかくこのだるさをどうにかしたい。
「まずは何か食べないと・・・僕のお弁当でも食べますか?」
「・・・・・・いい」
俺の意見は無視されたようで、みかんゼリーの匂いが漂ってきた。
お願いだからしょうもないギャグはやめてくれ。

「ギャグじゃないですよ、ほら、あーん。」
ゼリーののったスプーンを俺の口に近づける。
「あーん、じゃねぇよっ!」
「やれやれ、ちょっと落ち着いてくださいよ」
古泉は困った顔でゼリーを自分の口に放り込んだ。
困ってるのは俺だ。
何なんだお前は、ここに弁当を食べるためにきたのか?
「キョンくん・・・」
自分を呼ぶ声に気づいたときは遅かった。
古泉の唇が俺の口を封じ、間を割って生暖かいゼリーが流れ込んできた。
ただでさえ熱い体がさらに体温を増した気がする。
奴の顔が離れた後、すぐに反論を開始した。
「何なんだテメーは!大体さっきから顔が近いんだ顔がっっ!
 いい加減その変態加減をどうにかしろ!」
「あぁ、それは無理ですねぇ」
少し申し訳なさそうな顔でさらりと言いのける。
そんな変態と密室内に二人きりになっている状況は閉鎖空間に匹敵するヤバさだった。
43
・・・癪に障る。癪に障る笑顔。そう、あの感情を隠した笑顔野郎だ。
俺はあいつの何を知っているのだろう。超能力者。ホモ。人畜無害。
いつから俺はあいつのことを意識するようになったのだろう。
朝比奈さんを見ているときも、ハルヒに絡まれているときも気になるのはあいつの
待て、語弊が無いよう言っておくが俺はそっちの気は無い。全く無い。
メガネ属性とかポニーテール萌えとかはどうでもいい。いや、どうでもよくは無いが。勘違いをしないでもらいたい。

あいつが俺の耳元で囁く。柔らかい吐息が耳にかかる。気持ち悪い。思い返せば最初は気持ち悪いとは思わなかった。
そう、俺はいつから気持ち悪いと思うようになったのか。俺にはそっちの気は無い。
ふとそう思ってから古泉の吐息が気持ち悪いと感じるようになった。
・・・・・・・・まさか俺があいつを意識していたのか。そっちを意識していたのはあいつでは無く俺だったのか。
まさかこれが
42 古キョン(古泉視点
機関だとか演技だとか涼宮さんの意志だとか

もうそんなことはどうでもいい。


いや、そう言いつつ上に逆らうわけでもなく、素の自分を晒しだすわけでも、ましてや涼宮さんに刺激を与えるわけでもない。


ただそれを超えたところでこの人が愛しいだけ。



「古泉、ここはどこだ」
「部室ですね」
「ああ、まごうことなく部室だ。しかも何故かさっきお前によって密室にされたな」
何でいつもいるはずの長門までいないんだ、などぶつぶついいながら押し倒している僕の手をどかそうともがく。
今は昼休み。長門さんには頼んで出てもらった。朝比奈さんは昼は教室だし涼宮さんは…まぁ多分大丈夫だろう。いざとなったら施錠はしているし。
「あなたが声をださなければ問題ありませんから」
いつもどおりの笑顔で返す。
「何の話だ。話を進めるな。声をだすようなことをするつもりもない、いいから放せ!」
一息でまくしたてるキョン君。ああ、一挙一動、すべてが可愛らしく見える。少しおかしいのかもしれない、自分は。

「いいじゃないですか。二人きりになんてめったになれないんですから」
「まぁ…確かにそうだが」
シュン、と少ししおらしくなったように見える。キョン君もなかなか二人きりになれないということを悲しんでくれているのだろうか?自惚れてしまう。
「せっかく二人きりになれたんですから、二人きりじゃなきゃできないことをしようとしてるんですよ」
「お前は結局それじゃないか!」
僕より幾分背の低いキョン君を(失礼だがあまり体力もないようだし)組み敷くのは簡単なことだ。けど、
「無理矢理は趣味じゃないんで」
そう言って噛み付くようにキスをする。途端黙り自然と受け入れてくれるキョン君。愛しすぎてたまらない。

「…昼休み中にすべて終わらせろよ」
なんて可愛い受諾を聞き入れて、かつて見入った首筋に顔を埋める。


これは自分の意志だろうか?涼宮さんの意志?もうどちらでもいい。
ただただ可能なかぎり、
こうしていたい。
41 古泉×キョン 「涼宮ハルヒの通販」
「キョン、ちょっとこれ着けなさい!!」

 俺がいつものように部室で、朝比奈さんが淹れてくれた玉露よりも甘美な美味しいお茶を啜っていると、
 これまたいつものようにバンと、天然爆走娘SOS団団長涼宮ハルヒが、物騒なセリフと共にドアを開けて入ってきた。
 いい加減、ドアが外れるから普通に開けなさい。旧館なんだから、壊れやすいんだぞ。
 俺は心の中でそうぼやきつつ、ハルヒをちらっと横目で見る。

「ぶほっ!!」

 これは俺が茶を噴き出した音だ。ああ、勿体無い。
 じゃなくて、ハルヒが手にしているものは一体なんだ。
 おい、そんな誇らしげな笑顔で俺を見るな。そして近付いてくるな。
 俺が顔を青ざめさせながら、後ろに下がろうとすると、がしっと肩を掴んできたヤツがいた。

「……おい、古泉」
「はい、何でしょう」

 俺が振り向いた先には、エセ爽やか笑顔を通常の三倍で振りまきながら立っている古泉が居た。
 相変わらず顔が近いんだよ、息を吹きかけるな、耳元で囁くな。
 しかもこれ以上後ろに下がれないように、結構強い力で俺の肩を抑えてやがる。離せ、このヤロウ。
 俺が必死の抵抗を試みているのを無視し、ハルヒは満面の笑みでじりじりと迫ってくる。

「古泉君、ナイスよ! さすが副団長ね! そのまま抑えてて!」
「お誉めに預かり光栄です。仰せの通りに」
「ちょ、お前ら人の話を聞きなさ……やめろー!!」

 俺の心からの叫びも空しく部室に響き渡り、数秒後それを着けさせられた俺が居た。

「あはは! よく似合ってるわよ、キョン!」

 俺の姿を一目見た、ハルヒの第一声がそれだ。
 しかも腹を抱えて、さも可笑しそうに人差し指で俺を指し示しながらだ。
 人を指差すのはやめなさいってお母さんいってるでしょう。
 俺の頭の中には、思わずそんな現実逃避的なセリフが思い浮かぶ。
 穴が有ったら入りたいという格言が正に俺の今の状況にぴったりだ。
 というか自動販売機の取り出し口でもいい、穴に入りたい、誰か穴をくれ。
 俺は、藁をもすがる思いで、部室の隅の窓際で本を読んでいる長門に、視線を向けた。

「……ユニーク」

 ああ、長門よ。そんな興味深そうな瞳で俺をみつめないでくれ。
 一つの可能性が潰えた俺が、この場からどうにか逃れられないか視線を彷徨わせていると、
 お盆を持った朝比奈さんと目が合った。

「ひぇっ!」

 朝比奈さんは小さく蚊の鳴くような悲鳴を上げて、お盆を顔に寄せて心なしか頬を染めながら、
 もうそれは可愛らしい仕草でチラチラと俺の様子を伺っている。思わず抱きしめたくなってくるぜ。
 いやいや、そんなことより俺も恥ずかしくて顔が真っ赤だ。誰か、助けてくれー!


「ふふ、よく似合ってますよ。さすが涼宮さんですね」
「でしょでしょ! 絶対キョンに似合うと思ったのよ。ネットで買って正解だったわ!」

 そんなの通販で買うなー! と俺が精神的に疲れ過ぎて、心の中でツッコミを入れていると、
 後ろで何やら動く気配がした。ちなみに現在俺の後ろに立っているのは、あの古泉一樹だ。
 すさまじく嫌な予感が冷や汗と共に俺の背中を駆け抜ける。本能が逃げろと警告するがそれは遅く、

「はむっ」
「!●○×▼□※=$%@?+&?」

 俺が声にならない悲鳴を上げると同時に、部室のあらゆる空気が凍った。
 あろうことか、古泉は俺の耳を噛んできやがったのだ。
 しかも普通の耳ではない。

「これはいいネコミミですね」
「古泉! お、おまっ、何、人のミミ噛んでんだよ!!」
「おや、もうネコミミを気に入りましたか。それは良かったです」
「良くないだろ! というか、口を離せ!!」

 朝比奈さんがつけたら凄まじく似合うであろう、白地にピンクの猫耳を着けさせられた俺が、
 妖しく笑いながらはむはむ甘噛みしてくる古泉の呪縛から逃げ出そうともがいている間でも、
 ハルヒは指を差したまま固まってる。さすがに驚いたらしい。
 朝比奈さんはいわずもがな。長門は、本のページをめくる手が止まってる。
 もうさすがに俺も泣きたくなってきた。何なんだこの羞恥プレイ。非日常過ぎるぜ。


「お願いがあるのですが」
「何だよ」

 俺が今日最大の悪寒を感じながら、ギギギと首を軋ませながら古泉の方を振り向くと、
 そこには、本日最大級の笑顔で微笑んでいる忌々しい顔があった。ああ、忌々しい。
 そいつは人差し指を立てて、まるでどこぞのアイドルのように、ウィンク付きで言ってきた。

「『ネコミミ・モード♥』って言って下さい」

 今度こそ、部室が閉鎖空間になった。
 もう、何が起きても俺は知らない。全て耳フェチ変態古泉のせいだ。
 俺は半分涙目で、古泉の方を向きながら全力で吠えた。

「絶対、言わん!!」




 ――――その後、硬直から解けたハルヒに隙を突かれて写真を撮られた事実は、なかったことにしたい。



40 多分古キョン
答えはわかっている。
 よって問いかける意味はない。しかし問わずにいられないのは、違う答えを期待するからだろうか。
 意を決しあのさと声をかけると、古泉はにこにこと言葉を促してきた。
 この笑顔が憎い!
「昼休み中に、俺の弁当の箸がなくなってたんだが……知らないか」
 知らないと言ってくれ。
 その意に反し――いや、その決死な思いがかなった言葉が返ってきた。
「知りませんねぇ」
「……そうなのか?」
「えぇ」
 にこりと返される笑顔に、反対に拍子抜けする。いや喜ばしいことなのだが。
「悪かった……少し疑っていた」
「そうなんですか? ひどいですね」
 一瞬笑みが深くなり、
「僕があなたの箸を盗んだなら、まずあなたがよく持っているだろう位置を指紋で確かめ
てみて僕も同じように持ちあなたと手を合わせている感覚に悦に浸りながら、箸の先に優し
く口付けして――まぁ僕の優しさはあなたが腰砕けになる程度のものですが、そしてそのあ
とばれないようにこっそり返して何も知らないあなたが無防備に箸を使う姿を影からねっと
りと見つめますよ」

「……泣いていいか、俺」
 血涙ぐらい軽く出てきそうだ。
「まぁ、盗んだのは僕なんですが」
「は?」
「すみません、ちょっといたずらしてみたくなりまして。お返ししますね」
 差し出してきたのは、プラスチック製の箸。綺麗にそろえられたそれは、確かに俺のものだ。
 受け取れというのかこれを。奴が口にしたオンパレードを実行されているだろう箸を!
 心底楽しそうな古泉の笑顔が歪む。……あぁ、本気で涙が出てきたようだ。乾いた笑いが止
まらなかった。
 何で俺はこんな奴のことが好きなんだチクショウ!

39 古キョン
シャワーを浴びて白濁した液に汚れた肌を洗い流した。
身体の奥にまだ快楽の炎が燻っている。
手淫で抜こうとしても満たされなかった。
俺は掻き回されなければ感じないカラダになった事に気付き、愕然とした。
一生こんな淫らなカラダを持て余しながら生きなきゃならんのか。
古泉の所為で。


フラつきながらバスルームを出ると、リビングで元凶たる古泉が待っていた。
その気遣わしげな表情を見て恨めしい気分になる。
誰の所為だと思ってる。原因はお前だぞ。
軽く目眩を覚えながら危うい足取りでヤツの側に歩み寄った。
古泉は俺を支えるに違いない。喰えない野郎だが意外に紳士だ。…行為の最中を除けば。
「大丈夫ですか?」
予想通り、程よく均整のとれた体に抱き留められる。
その熱っぽさに、ねだっているのは自分だけではないのだと安堵した。

俺は古泉の腕に捕らわれながら、普段なら死んでも言わないような台詞を呟いた。
「…古泉。正直に言え。俺の事、どう思ってる?」
自分でもどうかしてると思う。昨夜の熱で頭がイカれたのかもしれない。
古泉は少し驚いたらしい。眉を寄せて訝しげに尋ねた。
「…何故そんな事を訊くんです?」
「お前が俺に無体な事ばかりするからだ」
頬をつねりながら文句を言った。
古泉のする事は口では言えない事だらけで、思い出す度に死にたくなるような仕打ちが多い。
度々俺に好きだの愛してるだのと言うが、手酷く嬲られた後はその言葉は本物なのか?と疑いたくなる。


大体、何だってコイツは俺と一緒に居るんだろう。
そのルックスなら選り取りみどりだろうに、わざわざ男の俺を選ぶとは。
だが別に同性しか興味が無いという訳でも無さそうだし。

時々不安になるのだ。もしかしたら古泉の言動全てが演技なのではないかと。
全ては機関の任務の一環で、ハルヒの嗜好を満たし閉鎖空間を生まない為の工作ではないかと。


だが、既に俺の中で答は出ていた。今更気持ちを偽って何になるのだろう。
俺はもうとっくにこの男に堕ちてるのに。

ボンヤリと考え込んでいると、古泉が俺の頬に軽くキスした。
「訊くまでも無いでしょう?僕は好きでもない相手を一晩中啼かせ続ける程ヒマじゃありませんよ」
俺は昨夜の行為を思い出し、羞恥心で小刻みに震えた。
「………」
古泉は赤面する俺を満足そうに見つめ、首筋に顔を埋めてきた。
コラ、噛むな。イタイし痕が残るだろうが。それでなくてもそこら中に痕が残ってるのに。
身を捩って抵抗すると、吐息混じりの囁きが耳をくすぐる。
「赤くなった顔も可愛いですね」
憎たらしいヤロウだ。腹が立つので背中に爪を立ててやった。
古泉は全く堪えた様子もなく、むしろ嬉しそうに笑っている。
脱力した俺は、古泉の胸に凭れかかった。心なしか速めの鼓動が聴こえた。
じりじりと乾いた欲が込み上げてくる。


「…なぁ…」
「なんですか?」
古泉の瞳に見上げる俺の顔が映った。物欲しそうにねだる俺の顔が。
きっと、俺が望めば身を焦がすような快楽を幾らでも与えてくれるだろう。
はしたなく喉を鳴らし、震える声で懇願した。
「…もう一度、欲しい。……ダメか?」
「……いいえ。喜んで。何度でも貴方を満たして差し上げます」
古泉は妖艶な笑みを浮かべて俺のシャツに手を掛けた。
露わになった肌に喰いつく唇や髪を梳く掌の感触が心地良い。
俺は古泉に貪られながら、この男を独占出来る極上の歓びに恍惚の吐息を洩らした。

38 古キョン
骨の髄迄寒くなりそうな位寒い帰り道を俺と古泉はひたすら歩いていた。

「愛してますよ、キョン君。」

話が尽きると必ず言う台詞、顔が近い、息を吹き掛けるな、さり気なく耳に接吻をするな…と突っ込めばキリが無いので止めておくが。

「なぁ、古泉よ。」
「何ですか?」
「いつも愛してるというが、どれ位愛してるんだ?…俺を。」

正直、気になってた。
はにかみ★青春の1ページの様な聞き文句であるが、此処迄言われ続けると気になるものだ。まぁ… 断 じ て まともな答え等期待していないが。
「そうですねぇ…24時間付け回して起床から就寝、寝言に関する事柄迄観察して、最終的には僕の自室で裸で監禁して、可愛がりながら調教したい位愛してます。」
聞くんじゃなかった、と思ったのは紛れもない事実である。
「そうじゃなくてだなぁ…。例えば此れ位愛してる…とか」
そうして俺は両手を目一杯広げて見せたが古泉は相変わらずキョトンとしているので、まともな答えを促す様な例えを言ってみた。
「ぁー…お前達にとって絶対的なハルヒが、俺達の仲を良く思っていなかったら、どうする?」
「それは組織にとっては困るでしょうが、勿論僕は貴方を選ぶつもりです。」

まぁ、正直嬉しい言葉であるが…恋とか愛は此処迄…組織を裏切る様な事でさえやってのけると思わせるのだろうか?
「好きになったのですから、貴方が一番大切になったと言う事です。キョン君、僕は貴方が好きです、愛しています。」
俺の思考を読み取ったのかと疑いたくなる位、思った事を次から次へと甘い言葉を添えて答えてくる我が恋人古泉。惚れた弱味だろうか…恥ずかしいが何も言えない。
「ところで…キョン君は僕の事、どの位好きですか?」
急に甘い言葉を終え、聞いてきやがった。
やっぱり古泉も気になるのだろうか?
「俺か?俺はお前の愛の当社比50倍位だ。」
「それなら僕は先程の100倍で。」
「なッ…じゃあ、俺は10000倍だ!」

そうして、途方もない小学生丸出しな言い争いをこの後別れ際迄していた。
いい歳をした男同士のこの情景を人々は、気温より寒々しく見ているのは気にしてはいけない事だ。


37 国木田古泉
僕は、恐怖で微かに震える古泉君の手の上に自分の手を置いた。
何をしても崩れない笑顔が憎らしくて、自分のネクタイで古泉君に目隠しをした。
込み上げてくる怒りを飲み込んで、優しい口調で囁く。
「古泉君が悪いんだよ?」
僕のキョンに近づきすぎたから。
壁に叩き付けた古泉君の顔の両側に手を置いて、顔を近づける。
すると一瞬、古泉君の眉間にしわが見えた。
「嫌なんだよね・・・?」
嫌なのに、なんで無理して笑ってんの?
僕は答えを待たずに唇を重ねた。
「・・・ぅ・・・っ・・・ん・・」
古泉君の声色からは嫌悪感しか伝わってこない。
その声で喜びを感じている自分が些か怖くなった。
顔を離すと、目隠しをしたネクタイに染みができていた。
「・・・・・・泣いてるの?」
でも、それとは対照的に口元が笑っている。
もうやめてください・・・
そう呟いた後、古泉君はうな垂れた。
僕には、やめる気なんて微塵も無い。

36 古キョン
「大丈夫か?古泉…」
「貴方を守るのでしたらこの位平気です。」
何臭い事言ってやがんだ、この優男は。
「俺の所為で…済まないな。」
そう、目の前の古泉が寝込んでいて、其れを看病している理由だ。お前の腹の馬鹿デカイ傷は、俺が付けた様な物だからな。素直に俺を責めてくれ。
「貴方を守れたなら本望です。」
そう言って自分の傷を指差して何時も通りに微笑む。ハァ…こういう所はどんなに痛そうな傷を負っても変わらない様だな、古泉。

この傷。俺が古泉を看病する現状。
この今に至るにはコンピ研部長の救出に遡る。

一面はまるで世界旅行でも来たかの様に広がる砂漠の景色。腰に巻き付く朝比奈さん、そして長門…おまけに古泉。此処迄は良い。許容の範囲内だ。
然し、異常に馬鹿デカーイ怪物の様なかまどうまが居る。もし、かまどうまを知らない人にはこの光景を見せてやりたい。一瞬にして近眼も老眼も覚えられるぞー。

長門や古泉、こいつらは守る術が有りそうだが、俺と朝比奈さんは安心出来ない。
「なんなんだこれは!」
「かまどうまでしょう…」
「そんな事は分かってる。どうでもいい。」
「この空間の創造種。」
「まさかこれもハルヒの仕業か?」
「原因は別。でも発端は彼女。」
「もう…動いて良いぞ。」
先程位動きを静止させた時から律義にも長門は静止した儘である。時と場合を考えて動いたりしてくれて構わないのだが、説明不足だったか。
「此処では、僕の力も不完全ながら有効化される様ですね。威力は閉鎖空間の10分の1。これで十分だと判断されたのでしょうか」

嗚呼、赤い玉みたいなあれがアイツの超能力なのか。
取り敢えず、あのデカイかまどうまを倒せば全てが丸く収まるらしい事は確からしい。まぁ、その…何だ。頑張ってくれ。なるべく早急に。

「直ぐ済みますよ。」
「さっさとやれ。」
「了解しました。」

そうしてヤツは赤い玉を投げ付ける。だが、あっさりやられてくれる筈も無く、又々巨大昆虫のカナブン君がかまどうまを回復させた様で。益々元気になった巨大昆虫は、また暴れ出した。
其処で、長門が不可思議攻撃を仕掛けた後、古泉がまた違った技を仕掛けた。…っと、其の赤い玉が当たって悶えてるぞ、巨大昆虫。効果有り…か?

「キョン君!朝比奈さん!危ないッ!」

と、一息ついたのも束の間、古泉が張り上げた声で分かったものの…かまどうまが俺達の方に倒れて来る…だって!?

「きゃぁぁああ!!」
朝比奈さんの絶叫と共に俺は腹を据えた。
朝比奈さんを守るのが男、キョンの使命だと神からのお告げが有ったのだろう。ならやろうじゃないか。やってやろうじゃないか。俺は想像におさまらない恐怖を瞼を強く閉じる事で我慢した………が、一向に痛みも何も俺に襲いかからなかった。
何故かと、俺は恐る恐る目を開ける…と、其処には古泉の背中が見えた。
コイツは…俺達をかばってくれたってのか?

「古泉ッ!」
直ぐ駆け付けてやり相手を見ると、すんでの所で下敷きになるのは逃れたが、かまどうまの足先が刺さったか、かすれたのか古泉の腹に深そうな傷が有った。
「大丈夫かッ?お前…」
「大丈夫です、よ。直ぐでは有りませんでしたが…始末しましたよ?」
古泉が指差す先には倒れたかまどうま。いや…いやいやいや!今はそうじゃないだろう!


「取り敢えず俺に掴まれ!…ほら」
「…ありがとうございます。」

俺達は其の後直ぐに病院に古泉を連れて行った。怪我の方は、見た目よりは軽かったらしく一週間程安静にしていれば治るそうだ。いや、然し、唯の変態優男かと思っていた古泉がこんなに男らしい一面が有るとは思わなかった。まぁ…見直したぞ、古泉。
「なぁ、古泉よ。」
「何ですか?」
俺は、ベッドに横たわった古泉に声を掛けた。もう、長門も朝比奈さんも帰路を辿って行った訳だが、俺はどうしても古泉と話しておきたかった。男として…な。

「本当、お前には礼を言うぞ。古泉。」
「嫌ですね、そんなにかしこまって。別に礼には及びませんよ。」
「然し、俺はてっきりお前は冷めたヤツだと思ってたよ。まさか、身を呈して迄俺達を助けてくれるとはな。」
「ハハ…株上げが出来て嬉しい限りですね…。まぁ、仲間ですし、貴方がとても大切でしたから。」
「はぁ?」
「兎に角、御礼をするのなら僕の傷が治る迄看病して下さい。僕としては其れが良いです。」
「え…あ、…分かった。やるよ。」

とんでもない言葉を聞いた気がするが流しておいた。これ以上面倒な事になるのは御免だ。古泉が看病で気が済むならやってやろう、其処迄嫌じゃないし…尚且礼をしないのは性に合わない。…と、そんなこんなで俺は古泉の世話係を暫くする事になったと言う訳だ。

「キョン君。お茶、お願いします。」
「分かったから少し待ってろ!」
何と言っても一週間程だ。少し我儘位聞いてやるつもりだ。

35 古キョン前提国木田→キョン
廊下でキョンにぶつかった。珍しい。こんな時間に会うなんて。
貴重な宝物でも見つけた時のように弾む僕の心に、キョンは今日も気付かない。

衝突した時と同じ慌てた顔を上げたキョンは僕を見て心なしか目を丸くしたようだった。

「……国木田?」
「そうだよ。珍しいね、キョン」

部活棟で会うなんて。それにしてもどうしたの?随分急いでたみたいだけど。
矢継ぎ早に質問を投げかけるとキョンが手の甲で口唇を覆ったままうっと黙り込んだ。
そのただならぬ空気に、僕はそれと悟られないほど自然にキョンの背後を窺う。
そこにSOS団の扉がある。室内は静かだった。少なくとも涼宮さんがいるようには思えない。

「いや、あの、別に急いでたわけではなく、その」

しどろもどろに受け答えするキョンの顔が赤かった。
林檎のような色に惹かれて思わず手を伸ばす。

(あつい)

キョンの頬は、それこそ火傷でもしそうなくらい熱い。
うっかりすると、僕の方こそ熱に浮かされそうだ。

と、その時凝視していた扉がかたんと動いて、室内から人が出てきた。
その途端、蕩けていた僕の心はひどくささくれてしまう。黒いものが、溢れる。

「…それでは、僕はお先に失礼しますね」
「……お、おう」

振り返りもせず、俯いたまま素っ気無く言葉を返すキョン。
その僅かに照れた声と、触れた頬の高熱に、僕は大体の答えを知った。

「…国木田?」
「ああ、ごめんね」

瞬間的に頭を過ぎった苛立ちを押さえ付け、思わず立てかけていた爪を両脇に垂らす。
僕は怪訝そうな顔をしているキョンに微笑んでみせた。この顔が齎してくれる効果が十二分に生かされることを待っていると、やがて訝しげだったキョンの表情が解れて普段通りの柔らかさを取り戻す。そう、これでいい。

───そして僕も、行き過ぎた真似はすべきじゃない。
何故ならこれはキョンの肌で、キョンの顔だ。傷付けたい筈がない。

「じゃあ、俺行くから」
「うん。また明日」

目前の人間の胸中など露程も知りはしないキョンが、軽い足音と共に僕の前から走り去る。
その意外に細く、どこか頼りないひょろりとした背中を僕は無言で見送る。
触れた肌の感触を思い出したくて指の先を擦り合わせてみたが、そこにはかさついた僕の感触しかなかった。
ぼんやりとその指を、その尖った爪を見下ろして僕は考える。その爪を突き立てる相手を。
親指で人差し指の腹をきつく押してみる。半月状の痕を、ぼんやりと見つめた。

(もしもこれがあいつの顔だったら、ずたずたにしてやったのに)

尤もあいつの顔になど一生触れたくもないし出来れば目に入れたくもないのだが。
廊下を曲がってキョンが見えなくなった後も、僕は暫くその場に立ち尽くしていた。

34 古キョン
「…なんて、な」
慣れない小芝居を演じた気恥ずかしさから、肩をすくめながらそう言って
首にかけた手を離すため姿勢を起こそうとした俺の腕が不意にかけた力とは逆方向に引っ張られ、
直後視界が逆転した。
何が起こったかを把握したのは、息がかかるほどの近距離で真っ直ぐに俺を見つめながら
口元だけに笑みを浮かべる古泉と、その後ろに広がる天井を眼前に認めた時であった。
―何で押し倒されてんだ、俺。

「こんなに美味しい状況を僕がみすみす見逃すとお思いですか?」
自分に何が起きたのか理解するだけでも相当な時間を要したのに
そいつの口から吐かれた台詞は俺の理解の範疇を軽く成層圏あたりまで越えていて、
その意味を考える事を放棄してとりあえず俺は男にベッドの上で押し倒されているという状況に腹を立てていた。

「…何のジョークだ、古泉」
だから顔が近いんだよ顔が。心の中でそう毒づいて、
自分が瞳に映っているのを確認できそうなほど顔を近づけているそいつを睨む。
が、悪意という悪意をこれでもかと詰め込んだ視線はどうやら全く効果がないらしく、
いつもの笑みを崩すことなく俺を見つめ続けている。
しっかりと俺を押さえつけながら。
…動けねぇ。ただの優男ではないのは知っていたがこいつ俺より力強いのか。
絡めるような視線に耐え切れなくなった俺はついと横を向いた。
動揺したらこいつの思う壺だと思い、平静を装って再び問う。
「だからどういうつもりだって」
聞いてんだよ、と続けようとしたがそれは叶わなかった。
突然強い力で顎を掴まれ正面を向かされた上、口を塞がれたからだ。奴自身の口で。
「~~~!!!」
軽くパニックになった俺は今の状況から逃れようとあらん限りの力を振り絞って抵抗を試みたが
古泉の予想外の力の前では全く無意味だった。
「……っん………はぁっ…」
舌の絡むいやらしい音とそこから漏れる自身の声。
生まれてこのかた聞いたことの無かったその音と息苦しさに眩暈を覚え、
意識を手放しかけたその時にようやく俺は解放された。

「顔が真っ赤ですよ」
どこか満足げな笑みを浮かべたまま、全く悪びれない様子で古泉は言った。
当たり前だ頭のおかしい誰かのせいで酸欠なんだよ何考えてんだ冗談だとしても
全然笑えねーよつーか俺のファーストキスの相手が男でしかもいきなりディープだなんて
人生最大の汚点だ朝比奈さんに頼んで時間遡行させてもらおうかなんて事を
抗議することも忘れてぐるぐる考えていると、
「今日はもう寝ますね。おやすみなさいキョン君」
そう言って古泉はベッドに入って背を向けたきり静かになってしまった。

…ホントなんだってんだ。もういい、俺も寝てしまおう。
俺は半ばヤケになって事の一部始終が行われたベッドに入り、布団を頭からかぶって眠りが訪れるのを待った。
心臓は鼓動が古泉に聞こえるんじゃないかと思うほど激しく高鳴っている。

…顔が赤かったのは酸欠だったからだ。それ以外の理由は全く無い。
俺はそう何度も心の中で呪文のように繰り返し繰り返しつぶやき、
まだ感触の残っている自身の唇を手の甲で強く拭った。



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