三度俺が口付けようと顔を寄せると、古泉が手でストップをかけてきた。
「あなたに、お願いがあるのですが」
「何だ」
俺が不満気に返事を返すと、
古泉は俺よりも熱い視線を返してきて、目元は潤んでいる。が、妙に嬉しそうだ。
これだけだと、下手したら女性よりも、壮絶な色気を醸し出しているのだが、
如何せんその表情は、人を見透かすような笑顔だ。忌々しい。
それにお願いときたもんだ。こういっては何だが、
この状況でのお願いというものは、ロクなことがないと俺の勘が告げているね。
「僕のことを、苗字ではなく、名前で呼んでくださいませんか」
ほら来た。誰がそんなこっ恥ずかしいこと出来るか。
俺が苦々しい表情でそう呟くと、
古泉は肩で息をしながら、少しひょいとすくめるという器用なことをして、
「別に、恥ずかしいことではないですよ……キョン君」
何でお前が俺の名前を呼ぶんだ。しかもあだ名かよ。
「ああ、もっと言って欲しかったですか? キョン君、キョン君――――」
「うるさい。あだ名で呼ぶな、耳元で囁くな、連呼するな、…………一樹」
これ以上こいつを喋らせると、更に厄介なことになりそうなので、
いや、あだ名をその無駄に低くエロイ声で連呼されたのが決してむず痒かったからではないとも言えんが、
とにかく黙らせるために、そして行為を続行させるために、俺は古泉を立たせて、後ろ向きで壁際に押し付けた。
いわゆる立ちバックの体制だ。ちなみにヤツのご所望の通り名前を呼んだのは、ただの気まぐれ、もとい逆襲だ。
自分からお願いしたくせに、俺が素直に名前で呼んだことに相当驚いたらしく、
古泉は動きが停止していた。何だ、そりゃ。
だが、これはチャンスだ。俺は古泉を壁に押し付けたまま、自分でベルトを外し、
ジッパーを下ろして俺のいきり勃った愚息を引っ張り出した。
そのまま、無防備な古泉の後ろに擦り付ける。既に先端からは先走りが出て、ぬるぬるしていた。
ビクっと古泉の体が震えたのが感じられたが、さて俺はどうしようかと考えていた。
さすがにこのままじゃ入らないし、きついだろ。何か滑りをよくするものはこの部室にあったのかと思案していると、
「ぼ、くの、上着のポケ……ふぁっ……、日焼けど……く……」
喘ぎに紛れて途切れ途切れに言葉をなしてないが、古泉の言いたいことは分かった。
というかこいつは俺の表情を見てないのに、また考えを見透かした。本当に別の超能力を見に付けたのではあるまいな。
俺は頭の中でぼやきつつ、左手の人差し指とを中指を古泉の口に咥えさせ、
右手で上着のポケットをまさぐり、蓋を指を使って無理矢理こじ開け、そのまま手に付け塗りたくる。
「んぐっ……んんっ――――」
「そのまま指を舐め続けろ」
いきなりの行動に少々きつかったのか、くぐもった声をあげ、
少し目の端に涙を零しつつ、俺の言った通りに古泉は指をいやらしく舐める。
まるで甘い飴をもらったかのように、ぺろぺろと舐めたり、いちいちツボらしき所を刺激してくると俺の背筋がゾクリとした。
ちゅる……ぺろ……ぐしゅ……と溢れ出てくる唾液と共に卑猥な音が口から洩れ、俺の耳にも届いてきた。そそるね。
「ふっ……はむっ……あふぅ……じゅる……」
いつになく従順に指を舐め続ける古泉を見詰めながら、片方の手でこれから俺を迎え入れるソコを指でほぐしていく。
「んあっ! あっ……はっ……」
古泉は突然快感が襲ってきたのか、舐め続けていた俺の指を口から離し、悶える。
既に視点が定まっていない。足も小刻みに震え、支えてやらないと、今すぐにでも崩れ落ちるだろう。
俺はじゅぽっと唾液にまみれた指を引き抜くと、てらてらとわずかな光に反射している。
まるで自分のものではないようだ。と、自分の手を見て思う。
そのまま手をさげ、さっき弄んだ胸の突起をいじったり、体をまさぐってると、
俺の挙動に一々反応を返す古泉を見て、さすがに俺もヤバくなってきた。
「くっ、……そろそろ、挿れるぞ」
「いい、ですよ……」
待ち望んでいたその言葉を聞いた俺はぐっと腰に力を込め、古泉のソコを一気に貫く。
「ひぐっ!」
「うっ……」
結構濡れていたはずだが、それでも若干痛そうに呻き声をあげ、
古泉の目の端からは更に涙が零れている。
俺も入れた瞬間、一気にくる射精感を堪えるためにそれどころではない。
そろそろと落ち着いてきて、俺は一つ深呼吸し、古泉に尋ねる。
「おい、大丈夫か」
「うっ、だ……大丈夫ですよ……どうぞ、動いてください」
俺はそれを合図に、ゆっくりと動き出す。
古泉のはギチギチと締まっていて、出し入れする度にギュっと俺のを締め付けてくる。
荒い息をあげながら、チラリと古泉の表情を伺うと、なんとまた笑顔である。
それを見た途端、俺は突然その表情を歪ませたい衝動に駆られ、更に激しく貫いていく。
「うぁ……あっ、……激し……キョ……」
「……だから、あだ名で……はっ……」
喘ぎながら、薄く開いた口の端から涎を垂らし、古泉の顔からは微笑が消え、
苦しそうに目を瞑り、俺に合わせて腰を動かす。
その表情はとてつもなくエロイ。今までで一番エロイのではなかろうか。
じゅぷじゅぽと、俺達の動きに合わせて結合部からは何とも形容しがたい卑らしい水音が絶えず響いている。
俺の頭の中が段々と真っ白になっていき、境界線やら何が何やら分からなくなってくる。
だから、俺は気持ち良過ぎて、思わず無意識に口走ってしまった。
「くっ、……イ……イツ、キ、……俺、もう――――!」
俺の喉から搾り出すような声に、古泉は瞳を見開き、快楽にまみれた表情で応える。
「あはっ、……い、いいですよ……僕の中で、んっ……イって……」
「うっ、くっ……!」
ドクッ、ドクッと大きく脈動しながら、俺は古泉の中に大量の白濁をぶちこんだ。
中に入りきらないモノが、ツーと古泉の足をつたって、床に滲みこんでいく。
俺がイッたことに感じたのか、間を置かず再度古泉もまたイき、そのまま床に崩れ落ちた。
情事の後、ハァハァと二人して荒い息を付きながら、快感の余韻に酔いしれる。
どう考えてもやり過ぎた。そんなに俺はがっついてたのかね。
俺がそう心でぼやき腰に手をやりつつ、古泉の様子を見ると、こちらに嬉しそうな柔和な笑顔をニコニコと向けてくる。
「最後、名前で呼んでくださいましたね」
「……さあな」
「意地っ張りですね……。まあ、そんな所が可愛いのですが」
俺がぼかして返事をすると、ふふっと笑いつつ、汗で額に張り付いた前髪を指で除けながら、古泉は囁く。
おい、普通、そのセリフを言うのは俺じゃないのか。
だが、俺は余程のことがない限り、こいつに可愛いなんて言うつもりはないぞ。言ったら調子に乗るに決まってる。
俺が心の中でそう呟いていると、古泉はあの人を見透かすような笑顔で、
「僕は、いつでも期待して待ってますよ」
と、ほざきやがった。全く、俺が惚れたこの超能力者はどこまでも油断がならないぜ。
俺はそう心に刻み付け、未だ床にへたりこんでいる古泉に当初から疑問に思っていたことを尋ねた。
「なあ、なんでお前、俺の心を読んだんだ」
正確には俺の心を読んだような行動を取ったかだが。
俺が口にした言葉を聞いて、キョトンとしたような表情を浮かべた古泉だが、
徐々に顔面には柔らかな微笑が拡がっていく。一瞬、コイツを殴りたくなったのは言うまでもない。
「はて、何のことでしょう」
「とぼけるな」
「簡単な事ですよ」
俺の突っ込みで、いつもの調子に戻ったらしい古泉は人差し指を立てながら、嬉々として解説役に回る。
「まず、あなたは部室に入るとすぐに、僕に気付かれないように、鞄で隠しながら鍵を閉められましたね」
バレバレでしたが、と苦笑しながら、古泉は続ける。くそう、バレてたのか。
「部室には僕一人だけということは、あなたの後に涼宮さん達が来る可能性もあるはずなのですが、
あなたは、僕にそのことを尋ねられる前に、鍵を閉められた。
つまり、あなたは涼宮さん達が今日は部室に来ないということを、ここに来る前に知っていらしたということになります」
その通りだ。俺は普段なら鍵を閉めない。それに俺が部室へ行こうとする道中、
上ろうとした階段をものすごい勢いで半分涙目の朝比奈さんと相変わらずの表情の長門を引っ張りながら駆け下り、
『今日の活動は中止よ! 』と、叫びながら声を掛ける間もなく、嵐のように去っていくハルヒに会った。
俺が押し黙っていると、古泉は少し目を細めながら、
「それに、あなたは優しいお方ですから、先程何か逡巡されるように一瞬動きが止まった時、すぐに分かりました。
あなたが、僕を気遣ってくれている、とね」
相変わらず勘のいい奴だ。何となくそっぽを向きながら、ある言葉に俺は少しだけ反応する。
「俺は優しくないぞ」
「そんなことはないですよ。でも、優しくしてくださらなくてもいいですよ」
「何だって?」
今何だかとんでもない発言を耳にした気がする。俺がぐるりと古泉の方を凝視すると、
上半身を肌蹴たまま、いつもとは違うどことなく憂いを帯びた笑顔を見せた古泉が、
ゆっくりと、俺の肩に頭を乗せて寄り掛かって来た。
「古泉?」
肩に重みを感じながら、珍しく口を閉ざしたままの古泉を不審に思い、俺は声を掛ける。
俺の声に肩をぴくりと反応させ、古泉は唇だけ俺の耳元に寄せて呟いた。
「あなたになら、何をされても構わない」
そう発した古泉の声は俺が今まで聞いたどれとも違い、低くそして重かった。
俺が驚き、我に返って顔が近いとか頭重いぞとかその他諸々の文句を言おうとする前に古泉は顔を上げて、
「まあ、やっぱり痛いのは勘弁ですけどね」
あはは、と打って変わって朗らかに笑う。さっきの無駄に重苦しい雰囲気はどこにいった。
俺の驚きを返せと言いたいね。言う代わりに、俺は目の前にいる微笑野郎をぎゅっと抱き締める。
「おっと」
少しだけ驚いたらしい。これで驚き分は返したぜ。
それでも、俺は古泉を無言で抱き締め続ける。そのまま、関節技を決められるぐらいきつく抱き締める。
「ちょ、ちょっと、キョン君」
どさくさに紛れて、古泉はまたあだ名で呼んできた。だから、呼ぶなって言っているだろうが。
でも、俺はあまり気にしないことにする。何故なら俺はそれどころではないからだ。
更に抱き締め続ける俺に痛いですよ言いながら、全く痛くなさそうな古泉の爽やか笑顔より、
俺は満面の笑顔に違いない。
そう今の俺の心境、つまり『嬉しい』ってことさ。
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